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パン酵母(イースト)による膨化

パン造りに欠かすことができないものは酵母菌です。酵母菌であるパン酵母(イースト)はサッカロミセス・セレンビシェ(saccharomyces cerevisiae)に属する酵母菌で単細胞の生物です。
パンをふくらます正体が明らかになったのは17世紀後半で、オランダのレーウェンフック(Leeuwenhoek,A.,1632-1725)によってです。彼は顕微鏡を発明し、自作の顕微鏡によりパンを膨らます正体が酵母菌であることを確認し、また酵母菌の分離培養にも成功しました。パン酵母 Saccharomyces cerevisiaeの電子顕微鏡写真の絵を図に示します。

図 パン酵母の顕微鏡写真

酵母の生活は、空気の豊富なところでは呼吸(1)により生育し、酸素のない嫌気的な状態では発酵(2)によりエネルギーを獲得することができる特性をもちます。
(1) 呼吸 CH12O6+6O2→6CO2+6H2O
(2) 発酵 C6H12O6→2CO2+2C2H5OH

呼吸では、グルコース1分子が完全に燃焼すると、高エネルギー化合物であるATP(アデノシン三リン酸)が38分子生成します。
一方、酸素のない条件における発酵では、グルコース1分子から2分子のATPが生成します。原料のグルコースあたりの量からみると、発酵によるエネルギーの獲得は呼吸にくらべてはるかに劣ります。したがって、同じエネルギーを得るためには、酵母は嫌気的条件の方が好気的条件よりグルコース(糖)を多量に消費することになります。酸素があると、酵母のグルコース消費量が減る現象をパストゥール効果といいます。微生物学の祖といわれるフランスのパストゥール(Pasteur,L.)が発見した現象です。
  

 上記と少し重複しますが、パン酵母(イースト)はグルコース(糖)を吸収すると酵母の酵素によりしょ糖や麦芽糖を単糖類に分解します。単糖類はチマーゼ(複雑な酵素群)により次のように炭酸ガスとアルコールに分解されます。

C6H12O62CHOH+2CO2
酵母が糖を分解してCO2を出し、アルコールや他の有機物を作る現象を狭義の発酵ということは先のとおりです。酵母(イースト)はこの時発生するエネルギーで増殖します。
酵母がよく成長するには、糖のほかビタミン類、窒素、無機質
 小麦粉中には果糖、ブドウ糖、しょ糖、麦芽糖などをあわせて0.25%前後存在しています。そのほか酵素作用によって麦芽糖、ブドウ糖、果糖などができますが、パンや中華まんじゅうの皮を作る場合は酵母が発酵するための糖量としては足りません。そのため まず酵母を溶かす温湯に砂糖を加えて予備発酵液を作ります。けれどイーストにも色々種類があり 予備発酵のいらないドライイーストなども売っています。けれどその場合でも必ずパンの材料の中に砂糖を使っています。これはパンに適度な甘味を与えるだけでなくイーストが生きて増殖してくれるように糖(エネルギーになるもと)を添加するという意味をもっています。人が生きていくのに糖(エネルギーになるもと)が必要なようにイーストも生き物ですから同じように必要なのです。また小麦粉には砂糖や食塩を溶かした温湯を加えて先の酵母液とともによくこねます。よくこねることによって小麦タンパク質のグリアジンとグルテニンとが混合してグルテンを形成できます。
混ねつによりアミノ酸鎖の間には橋かけ結合(crosslinkage)ができて立体構造となり、グルテンの膜が形成されます。一方酵母のもつ酵素類は水を得て活性化し、発酵によってCO2を発生させます。できたばかりのグルテンは弾性が強く、粘性が少ないため、伸展性が弱いのでCO2を完全に包容することができません。酵母が一番快適に生きられるように適温、適湿で放置しておくと、酵母の発酵によりグルテンの網の目は広げられて伸展性は増してきます。これとともに小麦粉中のプロテアーゼやアミラーゼにより生地は柔軟になります。また弾性は弱くなり、伸展性は強くなります。これを生地の熟成といいます。
生地が熟成すると発酵によって発生するCO2
の圧力により生地は押し広げられ膨張します。CO2は、はじめは水溶液となるが一定濃度になるとガス状になります。この際生地中に含まれている空気または他のガスの小さなあわを核としてガスを発生するといわれています。充分こねたり、ショートニング(あるいはバターやマーガリン)を混ぜ合わせると空気を抱き込み細かい気泡が多くなり、細かいすだちを得るようになります。
 dough(ドウ)が約二倍の体積(けれど粉の種類、酵母の量、温度によって異なりますが)になるまで第一次発酵をしたら、こね直してガス抜きをします。これにより余分のガスを逃がし細かい気泡、海綿状組織の基礎ができます。さらにこれを型に入れるか分割成形して約2倍になるまで発酵させます。これを、二次発酵といいます。
二次発酵が終わると生地はオーブン内で加熱します。温度上昇により少なくとも55℃になるまでは酵母の急速な発酵とガスの温度上昇による熱膨張、水に溶けていたCO2の揮発やガスを核として発生する水蒸気などにより膨張します。一般には二次発酵による膨張が80%、オーブン中での膨張が20%で出来上がったパンがよいとされています。
さらに生地の温度が65〜70℃ になると酵母や酵素の活性が失われ、デンプンは糊化し、70℃以上になるとタンパク質の凝固がおこり、生地の気密性が失われます。そのためガスは逸散し、膨化は停止し、パンの海綿状組織が完成します。パン特有の香り(フレーバー)は発酵中に形成されるアルコールのほか、有機酸(乳酸、酢酸、コハク酸など)、エステル類(乳酸エチル、酢酸エチル)、カルボニル化合物(アセトアルデヒド、イソバレルアルデヒド)が混合したものです。
参考本。調理と理論。発酵食品への招待(島英治、ポピュラーサイエンス)

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